「保育園の視察に、オランダ行く?」

この問いかけに、「いく!」と即答した保育SVの森永です。

森永紗希子

世界で一番幸せな、オランダの子どもたち

実はわたくし、声をかけられる前に、ある本を読んでいました。「世界で一番幸せな子どもたち―オランダの保育」という本です。

2007年度にユニセフWell‐Being調査で、世界一になったオランダ。「なぜ、オランダだったのか?」、「日本や他の国と、どこが違うのか?」そんな思いで本を手に取ったあの日。実際に行って、その目で見れるなんて、こんな幸せなチャンスはありません!

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というわけで、本日はオランダの保育視察報告をお届けします。

オランダは、100の学校があれば100の教育があると言われるほど、教育熱心な国。イエナプランやピラミッドメソッドは、日本でも話題になりましたね。

今でこそ、オランダの子ども達は「世界で一番幸せな子どもたち」と言われていますが、1990年頃はいじめや問題行動が増加し、国としてこの問題解決に取り組んでいました。そのときに開発されたのが、「ピースフルスクールプログラム」です。「みんなのみらいをつくる保育園」では、子ども同士で問題解決をするように促したり、自由に自分を表現できるような保育を実現したいと考えており、このピースフルスクールプログラムを導入します。

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ピースフルスクールプログラムを導入するOBS小学校を訪問してきました!

今回のオランダ視察は、ピースフルスクールプログラムの導入事例と、日々の保育のヒントを得ることが目的でした。今回は最初に訪問した、オランダユトレヒト市オーヴァーフェヒト区にある小学校(OBS Overvecht、以下OBS小学校)の様子をご紹介します。

オランダでは満4歳の誕生日月を迎えると小学校に通えるようになります。首都アムステルダムから、30分くらいのところにあるOBS小学校。ピースフルスクールプログラムをオランダで初めて導入した小学校です。「えっ、ここが小学校??」というくらいこじんまりとしていました。校内を見てみると、まぁ置いてあるおもちゃや家具がなんでもおしゃれ。日本と違って、ポップな明るい雰囲気の小学校でした。

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生徒の数は4~12歳までで計175名。日本に比べるとだいぶ小規模な印象です。朝は8時30分登校で、保護者が子どもたちを送りに来ます。終業時間は14時30分で、帰りも保護者のお迎えがあります。

朝のお出迎え、帰りの送り出しの時には必ず先生が入口に立っていて、「Hi」「goedemorgen(おはよう)」と声をかけます。帰りは、必ず子どもの名前を言いながら「Tot morgen!(また明日)」と声をかけ、握手をして送り出します。もうこの光景を見るだけで子どもたちが先生たちに愛されているなぁ~と感じます。

「なぜ起きたか」ではなく、「どうすれば解決できるか」を教える理由

さて、ここからは授業の風景を紹介します。私たちは、4歳児のクラスを見学させてもらいました。ピースフルプログラムの理念は「自立」と「共生」。自分を知り他者を知る。思いやりや助け合い、小さいころからそれらを繰り返し学習していくのが特徴です。そして、各テーマのロールプレイには、虎と猿のパペット人形を使います。

私たちが訪れたときのテーマは、”おもちゃの取り合い”。保育の中でもよくあることですね。どちらが悪いとかではなく、「今どんな状況?」「何が起きてるの?」と子どもたちに、現実に起こってる事象を説明させます。「そうね。意地悪なことを言われてるね~。」「その時の解決法はどんな方法がある?」「まず止めて(STOP)って言う」「順番に使う」などなど。子どもたちは、それぞれの考えをいきいきと答えています。それが起こったことの原因とか、悪いのはどっちか、ということではなく、「それらを解決するにはどんな方法がいいかしら?」・・・ここがポイントなんですね。

小さな頭で、子どもたちは問題を平和的に解決するために、考えます。4、5歳の頭で、大人のような発想が出てくることもあるし、もちろん子どもらしい案も出てきます。日本での教育・保育現場では、大人(保育者)が、「こっちの子が悪い」とか「先に手を出したほうが悪い」と決め、「あなたが悪いんだから謝りなさい」と謝ることを促す……そんなことが少なからずあるのではないでしょうか。

「ごめんなさい」や「ありがとう」は、言えばいいというものではなく、心から言ってほしい言葉ですよね。言わされてるのではなく、本人が「ごめんなさい」という気持ちになって、初めて言葉にするものだと私は考えてます。心から「ありがたい」と感じてはじめて、「ありがとう」と言葉が出る。そのように、言葉って、気持ちが乗ることで相手に伝わるものなのです。このピースフルスクールプログラムはまさにその教育を行っていました。子どもたちが考えながら、それぞれの子どもが自分に合った答えを見つける

学びの最後は「まとめ」ではなく、「アクティビティ」

まとめの時間では、学んだことをまとめるのではなく、アクティビティを行います。この日は、「仲間探し」でした。「お友達と共通なものを見つけよう!」と声をかけると、子どもたちはそれは楽しそうに仲間を探していました。そして改めて、「この時間で、一番頑張った子は誰?」と子どもたちに問いかけます。そして、選ばれた子の名前をハートの紙に書き、それを毎回教室の壁に貼っていきます。なんて素晴らしい。先生が選ぶのではなくお友達から選ばれる!って……おうちに帰ったら、家族のみんなに自慢したくなっちゃいますよね。

ちなみにこのプログラムの時間は40分ぐらい。4歳の子が40分、ひとつのプログラムに取り組む。それもびっくりしました。子どもたちは、かなり集中して取り組んでいたように思います。

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この時間は、大事な時間ということで、普段は楽しい先生も少し厳しい印象です。「今、誰がお話してるかな?」「しぃーーっ!」「お話をよく聞いて」などなど、日本でいう”けじめ”をオランダでも大切にしていました。子どもたちはこうやって自然と、けじめ(=めりはり)を覚えていくのだと感じました。

問題が起きた時に、原因と解決策を教えてしまいがちな大人達

ピースフルスクールプログラムは、社会問題を解決するために始まりました。オランダ全体で、いじめや子どもの自殺などの増加といった問題を解決するために、学校風土や教室の雰囲気を改善することを目的とした教育プログラムを策定したことが始まりです。

問題が起きたその時に、子どもたちで話し合って「いじめをなくすにはどうしたらいい?」ではなく、幼児期(4、5歳)から、「そのときに、どうしたら良かったんだろう?」を考えます。原因ではなく、その時取る行動について考えるのです。「こうされたらどう思う?」「それを解決するためにはどうしたらいい?」と、考えさせる教育をすることで、他者と自分は違うということを学ぶ教育を行っているのです。

対立を深めないために、できることを笑顔で話し合う子ども達

小さいからわからないだろうではなく、一人の人間として議論をして課題を解決する、という作法を学べば、自らが目の前の問題を解決する人となって「私が課題を解決しうるのだ」という想いを培うことができるのかもしれません。「解決した」という経験の積み重ねは、問題が起こったときに、解決に向かって取り組む原動力になり得るでしょう。私たちは、問題が起こった時、対立(コンフリクト)が起こった時、何が原因だったのかを考えてしまいがちです。そして、それが起こらないように教えてあげてしまいがちです。でも、それでは、違う問題が起こった時、自分たちで解決することができません。対立(コンフリクト)は起こるもの

それを深刻にさせないために、できることはなにか?それを楽しそうに話し合う、オランダの4歳児クラスの風景は、「みんなのみらいをつくる心を育む」保育の実践を目指す私達にとって、心強い風景であり、明るいみんなのみらいを彷彿させる、希望に満ち溢れた光景でもありました。

「みんなのみらいをつくる保育園」の開園まで、あと5ヶ月。2園目の開園も決まり、わくわくが止まらない私たちでした。